コラム

変更報告書発表後の株価騰落率を調べてみる【2019年〜2022年のデータで検証】

本記事では変更報告書発表後の株価騰落率について分析した結果をまとめます。

 

大量保有報告書に関するデータは本サイトでも発信しており、新規(保有率が新たに5%を超えたもの)、増加(保有率が1%以上増加したもの)、減少(保有率が1%以上減少したもの)の3つのカテゴリーに分けて記事にまとめています。

参考記事: 「大量保有報告書」の記事一覧

 

大量保有報告書を確認することで、機関投資家の動きを把握することができ、投資判断の材料に活用することができます。

僕が参考にしているウィリアム・J・オニールのCAN-SLIM投資法でも機関投資家の重要性について説明しています。

参考記事: 【オニールの成長株発掘法】CAN-SLIM投資法について解説

 

過去の記事では、新規の大量保有報告書に絞って分析してみました。

参考記事新規の大量保有報告書発表後の株価騰落率を調べてみる【2019年〜2022年のデータで検証】

 

今回はこの続編で、保有率の増減発表後の株価の動きを集計して分析します。

大量保有報告書は、新規で保有率が5%を超えると発表されるものになりますが、そこから保有率が1%以上増減した場合は変更報告書として報告をする義務があります。

これを活用することで、買い増しや売却(利確 or 損切り)を把握することができます。

 

今回の分析の条件を以下にまとめます。

 

分析条件

  • 対象は東証銘柄のみ
  • 大量保有報告書のカテゴリーは増加と減少(それぞれ保有率が1%以上増加・減少したもの)だけに絞る
  • 2019年1月1日〜2022年12月31日に発表された大量保有報告書を対象とする
  • 1ヶ月を21営業日と定義して、大量保有報告書の発表から1ヶ月後(21営業日後)、3ヶ月後(63営業日後)、6ヶ月後(126営業日後)、12ヶ月後(252営業日後)の株価騰落率を計算する
  • 発表当日の終値を基準として株価騰落率を計算する(市場が閉まる15時以前と以後で分けない、全て当日終値で統一)
  • 提出者及び保有割合は「第4【提出者及び共同保有者に関する総括表】」から取得したものを使用する(最初の1つだけ使用する)

 

上記の条件に基づいてデータを収集して分析を行いました。

 

 

全体の主要統計値をまとめる

まずは全体の結果を見てみます。

増加と減少に分けて、それぞれ発表から1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後の株価騰落率の主要統計値をまとめました。

 

増加

増加の主要統計値をまとめます。

 

項目 株価騰落率(1ヶ月後) 株価騰落率(3ヶ月後) 株価騰落率(6ヶ月後) 株価騰落率(12ヶ月後)
個数 2,968個 2,968個 2,968個 2,968個
平均値 0.99% 2.64% 5.14% 9.47%
標準偏差 13.23% 22.24% 30.92% 45.94%
最小値 -61.83% -72.16% -79.48% -96.47%
第一四分位数 -5.14% -8.27% -10.70% -14.13%
第二四分位数 (中央値) 0.15% 0.45% 1.05% 1.59%
第三四分位数 6.11% 10.68% 14.70% 22.46%
最大値 170.57% 339.71% 423.38% 661.39%

 

全部で2,968個の増加の大量保有報告書がありました。

平均値でも中央値でも各期間の騰落率がプラスになっていることは注目に値しますね。

増加の大量保有報告書はいわゆる買い増しをしている状態です。

保有者もある程度の自信を持っていると思うので新規の時よりも中央値と平均値ともに良い結果となっています。

 

減少

次に減少もみてみます。

 

項目 株価騰落率(1ヶ月後) 株価騰落率(3ヶ月後) 株価騰落率(6ヶ月後) 株価騰落率(12ヶ月後)
個数 11,044個 11,044個 11,044個 11,043個
平均値 0.42% 1.65% 3.59% 7.07%
標準偏差 18.51% 28.90% 40.76% 60.37%
最小値 -73.45% -79.66% -81.62% -99.44%
第一四分位数 -7.33% -12.08% -17.07% -22.98%
第二四分位数 (中央値) -0.61% -1.20% -1.72% -2.42%
第三四分位数 5.75% 10.66% 15.24% 22.53%
最大値 377.88% 792.80% 956.34% 1071.47%

 

減少の大量保有報告書は全部で11,044個ありました。

新規(3,377個)と増加(2,968個)と比べるとずば抜けて多いことがわかります。

平均値で見ると全ての期間においてプラスになっていますが、中央値で見ると全てマイナスです。

極端に上昇した銘柄が平均値を押し上げてはいるが、全体的にはマイナス傾向にあることがわかります。

 

減少の大量保有報告書は一部利確、あるいは損切りの可能性が考えられます。

いずれにしてもだいぶ上昇してきたか、下落してきた時に実行することになると思うので、新規や増加に比べると全体的な数値はマイナスになって当然と思います。

マイナスになっている=正しい判断ができていると捉えることもできますね。

 

保有者をランキングしてみる

次に保有者別のデータを集計してランキング化してみます。

ある程度のデータがないと参考にならないので、データ数(対象となる大量保有報告書の数)が5つ以上ある保有者に絞ります。

 

また、分析をしていると1つの銘柄だけ何度も大量保有報告書を提出しているパターンも結構ありました。

これが減少のデータ数が極端に多い理由になります。創業者が自分の株を売却しているパターンとかです。

こういったケースを避けるために、データ数が5つ以上あることに加えて、取引銘柄が5銘柄以上ある保有者に絞って計算しました。

これでほぼほぼ機関投資家に絞られます。

 

ランキングの条件をまとめると次のようになります。

 

ランキングの条件

全期間において、

  • 該当する大量保有報告書が5つ以上、かつ取引銘柄数も5つ以上ある保有者が対象
  • 期間別に保有者別の騰落率を中央値でソートして、たとえば全部で50個のデータがある場合には1位が50点、2位が49点、、、50位が1点のようにポイント加算する。
  • 各期間のポイントの合計値から総合ランキングを計算する。
  • ポイントは最高値で割った相対値で示す。(0〜1の間になります)
  • 該当データが多いので上位10個のみ表示する。

 

増加

まずは増加の結果から見ていきましょう。

 

上位10

上位10がこちらになります。

集計の対象となる保有者は47個ありました。

 

順位 保有者 ポイント 銘柄数 提出数 株価騰落率(1ヶ月後) 株価騰落率(3ヶ月後) 株価騰落率(6ヶ月後) 株価騰落率(12ヶ月後)
1位 株式会社ヴァレックス・パートナーズ 0.973 6 8 7.295 17.175 15.120 48.925
2位 マサチューセッツ・ファイナンシャル・サービセズ・カンパニー 0.952 6 8 5.045 17.140 24.410 39.150
3位 ブラックロック・ジャパン株式会社 代表取締役会長 井澤 吉幸 0.894 9 9 9.400 15.540 15.420 4.930
4位 株式会社ストラテジックキャピタル 0.888 9 19 7.320 8.070 10.530 28.040
5位 株式会社ブロードピーク 0.835 8 8 2.885 7.690 11.045 19.480
6位 NIPPON ACTIVE VALUE FUND PLC 0.824 5 9 6.270 6.040 10.140 20.100
7位 日本銀行 0.819 15 25 3.830 7.700 10.640 15.050
8位 VIS Advisors,LP 0.819 10 22 6.015 5.485 15.505 5.200
9位 光通信株式会社 0.798 21 22 3.100 6.585 10.970 11.360
10位 ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社 0.798 21 46 2.565 4.950 12.145 16.320

 

ご覧の通り、全ての結果でプラスになっていることがわかります。

ただし、保有者によっては期間ごとによってパフォーマンスが大きく変わることがわかりますね。

新規の場合は、期間が長くなるにつれて騰落率も上がっていく傾向がもっと強かったのですが、増加の場合は結構バラバラです。

買い増しするタイミングになるので、そこからすぐに天井圏に入って上昇トレンドがストップしたケースなどが考えられます。

 

1位の取引銘柄を確認する

次に1位になった株式会社ヴァレックス・パートナーズの取引銘柄を見てみます。

 

証券コード 会社名 提出日 株価騰落率(1ヶ月後) 株価騰落率(3ヶ月後) 株価騰落率(6ヶ月後) 株価騰落率(12ヶ月後)
6333 株式会社帝国電機製作所 2021/07/01 -1.67 9.71 18.15 38.38
3458 株式会社シーアールイー 2021/07/02 -3.01 39.84 1.32 4.45
4310 株式会社ドリームインキュベータ 2021/12/07 23.29 74.65 76.54 91.93
4310 株式会社ドリームインキュベータ 2021/12/27 27.67 78.36 32.33 71.58
4310 株式会社ドリームインキュベータ 2022/02/01 8.27 -1.02 5.03 25.89
7347 株式会社マーキュリアホールディングス 2022/03/17 16.77 24.64 29.40 49.48
6678 株式会社テクノメディカ 2022/10/28 6.32 4.91 12.09 48.37
6364 北越工業株式会社 2022/12/20 3.87 5.53 10.11 90.92

 

圧倒的なパフォーマンスですね。

6ヶ月以降は全てプラスです。

3ヶ月後にも30%を超えるような大きな利益を出しているパターンが結構ありますね。

 

減少

次に減少についてみていきます。

 

上位10

上位10個をみてみます。

該当保有者は130個ありました。

 

順位 保有者 ポイント 銘柄数 提出数 株価騰落率(1ヶ月後) 株価騰落率(3ヶ月後) 株価騰落率(6ヶ月後) 株価騰落率(12ヶ月後)
1位 パインブリッジ・インベストメンツ株式会社 0.971 7 9 14.080 24.910 41.960 23.120
2位 Scion Asset Management,LLC 0.960 6 6 7.265 25.510 18.275 35.040
3位 MFSインベストメント・マネジメント株式会社 0.931 5 7 8.400 14.910 10.030 26.920
4位 BNYメロン・アセット・マネジメント・ジャパン株式会社 0.927 7 11 2.660 16.550 12.830 83.000
5位 積水化学工業株式会社 0.860 5 9 0.040 12.270 31.350 47.250
6位 JPモルガン証券株式会社 0.842 9 9 2.470 12.790 21.000 7.160
7位 ゴーディアン・キャピタル・シンガポール・プライベート・リミテッド 0.837 6 19 7.320 1.290 16.460 12.460
8位 Bridge Capital Asset Management株式会社 0.823 5 12 -0.560 8.835 27.025 48.240
9位 オッペンハイマーファンズ・インク 0.810 7 8 2.530 5.175 16.750 6.375
10位 オービス・インベストメント・マネジメント・(ガーンジー)・リミテッド 0.800 6 7 4.730 3.830 5.070 9.120

 

こちらもどれも素晴らしい結果ですね。

12ヶ月後よりも手前にピークが来てるものも結構あるのでうまいタイミングで利確できていることが想像できます。

減少の大量保有報告書を見る際には、これまで保有していた銘柄がどれくらい利益を上げていたのかを確認する必要があります。

下がっていたら損切りの可能性が高くなるのでイナゴはしないほうが無難です。

 

1位の取引銘柄を確認する

次に1位となったパインブリッジ・インベストメンツ株式会社の取引銘柄もみておきましょう。

 

証券コード 会社名 提出日 株価騰落率(1ヶ月後) 株価騰落率(3ヶ月後) 株価騰落率(6ヶ月後) 株価騰落率(12ヶ月後)
6532 株式会社ベイカレント・コンサルティング 2019/06/05 12.94 25.89 52.32 158.86
3179 シュッピン株式会社 2019/08/06 40.99 41.83 45.07 15.63
6532 株式会社ベイカレント・コンサルティング 2019/08/06 -8.81 5.15 59.60 127.13
6736 サン電子株式会社 2019/10/02 -0.47 18.31 0.27 43.18
6619 ダブル・スコープ株式会社 2020/04/17 19.45 115.50 121.88 110.64
7196 株式会社Casa 2020/12/17 -5.83 -6.58 -7.42 -13.63
3319 株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン 2021/02/17 14.08 24.91 24.74 -12.97
6638 株式会社ミマキエンジニアリング 2021/07/26 14.34 13.57 -5.25 -10.63
3179 シュッピン株式会社 2021/12/20 14.98 30.26 41.96 23.12

 

上昇しているものでも近々ピークに達する可能性があるので得られる利益は限られている可能性を考慮に入れておくべきですね。

3ヶ月とか6ヶ月後にはピークを迎えて12ヶ月後には下落に転じているケースも結構ありますね。

 

まとめ

本記事では大量保有報告書の増減発表後の株価騰落率について分析した結果についてまとめました。

2019年〜2022年に発表された大量保有報告書(保有率が1%以上増減したもののみ)を対象に一定期間後の株価騰落率を計算して全体の傾向や保有者別の成績を出してみました。

 

増加と減少を比べると、増加の方がきちんとプラスになっていることが確認できました。

保有者は自信を持って買い増しをしているのでしょう。

 

一方で、減少が発表されると数ヶ月後あるいは1年後にはマイナスになっているケースもそこそこありました。

きちんとうまく利確あるいは損切りできていることが想像できますね。

 

本サイトでは、大量保有報告書のデータを毎日発信しています。

新規(保有率が新たに5%を超えたもの)、増加(保有率が1%以上増加したもの)、減少(保有率が1%以上減少したもの)の3つのカテゴリーに分けて記事にまとめています。

し成績の良い保有者がエントリーしているのが確認できたら我々もエントリーを検討してもいいのかもしれません。

参考記事: 「大量保有報告書」の記事一覧

 

本記事では増加と減少を取り上げましたが、過去記事では新規のデータを分析していますので合わせてご覧ください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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