YoY(前年比)だけでEPS成長を追うと、景気循環や一時要因で数字が大きくブレて判断が難しくなります。
そこで便利なのが CAGR(年平均成長率) です。
CAGRは「開始値→終了値」を複利でならして成長率を出すため、成長の再現性(持続性) が見えやすくなります。
本記事では、EPS成長率を 「EPSのCAGR」 として扱い、3年/5年の計算手順、予想EPSの混ぜ方(推奨パターンあり)、Excel/Googleスプレッドシートのコピペ式、そしてマイナスEPS・希薄化・特別利益などの注意点までまとめます。
結論:EPS成長率はCAGRで見るとブレが減り、成長の実力を比較しやすい
EPS成長率は、実務的には EPSのCAGR(年平均成長率) として見るのがわかりやすいです。
CAGRは「開始→終了」を年数で均した複利の成長率なので、単年の反動増・反動減に左右されにくく、銘柄同士の比較もしやすくなります。
ただし、CAGRがキレイでも安心はできません。
EPSは 特別利益 で一時的に跳ねたり、希薄化(株数増) や 自社株買い(株数減) で見え方が変わります。
EPSの詳細については、「EPSとは?」で解説しています。
まず前提:CAGR(年平均成長率)の計算式
CAGRの基本式
CAGRは次の式で計算できます。
CAGR = (終了値 ÷ 開始値)^(1/年数) − 1
ここで注意点が1つ。「年数」はデータ点の個数ではなく期間です。
例:2021年→2024年なら 3年(2021→2022→2023→2024)です。
EPS成長率(CAGR)に当てはめると?
EPS成長率(CAGR)は、この開始値・終了値をEPSに置き換えるだけです。
-
開始値:初年度EPS
-
終了値:最終年度EPS
このEPSのCAGRが、そのまま「EPS成長率」として使えます。
EPS成長率(CAGR)の計算手順【3年・5年】
3年CAGRの計算(例:2021→2024)
-
年数:3
-
開始EPS:2021年のEPS
-
終了EPS:2024年のEPS
上のCAGR式にそのまま入れます。
例(ざっくりイメージ)
2021年EPS=100、2024年EPS=200 の場合
CAGR = (200/100)^(1/3) − 1 ≒ 0.26(約26%)
5年CAGRの計算(例:2019→2024)
-
年数:5
-
開始EPS:2019年のEPS
-
終了EPS:2024年のEPS
5年は3年よりも、景気循環をならして構造的な成長を捉えやすい 一方で、直近の加速/減速は鈍って見えやすいです。
どっちを見る?(実務の目安)
結論:両方見るのが安定します。
-
5年CAGR:成長の耐久性(長期で伸びているか)
-
3年CAGR:直近の勢い(加速しているか、鈍化しているか)
成長株では、3年CAGR > 5年CAGR なら「直近で成長が加速している」サインになり得ます(逆なら鈍化の可能性)。
もちろん決め打ちはせず、理由(売上・利益率・プロダクト要因)まで確認します。
予想EPSをどう扱うか?
パターンA:実績のみ(保守的・確度高)
過去実績だけで3年/5年CAGRを出す方法です。
確度が高い一方で、将来の変化(新製品・構造改革など)を織り込めません。
-
「まずはブレない基準を作る」目的に向いています。
パターンB:実績→来期予想を別枠で出す(おすすめ)
おすすめはこれです。
「実績CAGR」と「来期込みCAGR」を分けることで、予想の不確実性をコントロールできます。
-
実績CAGR(確度高)
-
来期込みCAGR(将来の期待を反映。ただし外れる)
混ぜるなら必ず、表や注記で「Forecast込み」 と明確にラベルを付けるのがポイントです。
パターンC:実績+予想CAGR(便利だが依存度が高い)
便利ですが、予想が外れたらCAGRも崩れるので注意が必要です。
採用するなら、記事中や表の見出しに「予想を含む」ことを明記し、読み手が誤解しないようにします。
Excel / Googleスプレッドシート計算例(コピペ用テンプレ)
最も汎用的な式(POWER)
CAGRの計算はPOWER関数でできます。
Excel、Googleスプレッドシートどちらでも利用可能です。
式:
=(POWER(終了EPS/開始EPS,1/年数)-1)
**例:**開始EPSがB2、終了EPSがB5、年数が3なら
=POWER(B5/B2,1/3)-1
表示形式を「パーセント」にすると見やすいです。
テンプレの表構成案
おすすめは「メモ列」を作ることです。あとで見返したときに判断がブレにくくなります。
こちらはただの一例で、僕が一時期使っていたものです。自分好みにカラムを追加したりカスタマイズして使いやすさを上げていきましょう。
| 年度 | EPS | YoY | 3年CAGR | 5年CAGR | メモ(特別利益・希薄化など) |
| 2019 | 100 | - | - | - | |
| 2020 | 130 | 30.0% | - | - | 特別利益含む |
| 2021 | 120 | -7.7% | - | - | 希薄化 |
| 2022 | 160 | 33.3% | 16.96% | - | |
| 2023 | 190 | 18.8% | 13.48% | - | |
| 2024 | 200 | 5.3% | 18.56% | 25.99% | |
| 2025 | 215 | 7.5% | 10.35% | 18.26% | |
| 2026(予想) | 240 | 11.6% | 8.10% | 25.99% | 予想値 |
見方のコツ:CAGRは「数字」より中身を確認する
チェック① 売上成長と整合しているか
EPSだけが伸びて売上が弱い場合、どこで成長を作ったのかを疑います。
-
一時的なコスト削減で利益が出ただけ?
-
たまたま為替や市況が追い風だった?
-
反動減が来る構造じゃない?
売上とEPSがセットで伸びているほど、成長の説得力は増します。
チェック② 利益率の改善は持続するか
EPS成長の源泉が利益率改善の場合は、「再現性」が重要です。
-
価格転嫁が継続できるか
-
高付加価値化が進んでいるか
-
構造改革(固定費の削減)が一過性ではないか
「一度良くなっただけ」か「継続的に良くなる構造か」で、CAGRの価値が変わります。
チェック③ 株数(希薄化/自社株買い)の影響
EPSは1株あたりなので、株数の増減で見え方が変わります。
-
株数が増える(希薄化)→ EPS成長が抑えられる/見かけが弱まる
-
株数が減る(自社株買い)→ EPSが押し上げられる
株数の増減の影響の詳細については、「EPSとは?」で解説しています。
落とし穴(計算以前に詰まりやすいポイント)
EPSがマイナス/ゼロのときCAGRは扱いにくい
EPSが0やマイナスを跨ぐと、CAGRの「終了÷開始」の形が崩れやすく、数字が意味を持ちにくくなります。
対処案:
-
区間を変える(黒字化後の期間だけでCAGRを出す)
-
売上CAGR/営業利益CAGRも併用して、事業の伸びを別角度で確認する
黒字化前→黒字化後は成長率が極端になりやすいので、比較に使うなら区間を揃えるのがコツです。
特別利益でEPSが跳ねている
特別利益でEPSが跳ねると、CAGRが過大評価になりやすいです。
メモ列に「特別利益」などを残し、再現性がある成長かを切り分けましょう。
1年だけ異常値(反動増/反動減)がある
単年の異常値があると、3年CAGRが歪みやすいです。
3年/5年の両方を出し、YoYも併記して歪みを見つけるのが安全です。
実務テンプレ:EPS成長率(CAGR)→最後は株価=PER×EPSに戻す
ステップ1:5年CAGRで耐久性を確認
まずは長めでならして、構造的に伸びているかをチェックします。
ステップ2:3年CAGRで直近の勢い/加速を確認
次に直近の勢いを見て、「加速しているか」「鈍化しているか」を把握します。
ステップ3:EPSの質(希薄化・特別利益)を点検
CAGRが良くても、特別利益や希薄化で見かけになっていないかを確認します。
参考記事:「EPSとは?」
ステップ4:株価はPER×EPSで説明できるか
最後に、株価の動きが EPS要因 と PER要因 のどちらで説明できるかを分解します。
「EPSが伸びているのに株価が弱い」なら、PER縮小(評価の低下)が起きている可能性があります。
参考記事:「株価は「PER × EPS」で決まる」
まとめ:CAGRは成長の平均値。計算は簡単、判断は丁寧に
-
EPS成長率は、EPSのCAGRとして 3年/5年 を出すと比較しやすい
-
ただし、EPSの質(特別利益・希薄化)と前提を点検しないと誤解する
合わせて読みたい記事
「EPSとは?」
「PERとは?」
FAQ
EPS成長率は「3年」と「5年」どっちを見る?
基本は両方です。
5年で耐久性、3年で直近の勢い。成長株は「3年>5年」が加速のヒントになり得ます。
予想EPSを混ぜていい?(混ぜるならどう表記する?)
混ぜてもOKですが、実績CAGRと予想込みCAGRを別枠で出す(パターンB) が安全です。
混ぜる場合は「予想込み」と明記するようにしましょう。
EPSがマイナスのときCAGRはどうする?
マイナスやゼロを跨ぐ区間はCAGRが不安定です。
黒字化後の区間で出すか、売上/営業利益CAGRを併用します。
希薄化があるとEPS成長率はどう見ればいい?
株数の増減でEPSは変わるため、希薄化や自社株買いをメモし、可能なら「利益総額」や「売上/利益率」も併せて確認します(詳細は「EPSとは?」)。
EPS成長率が高いのに株価が上がらないのはなぜ?(PER要因)
PER縮小(評価の切り下げ)で相殺されている可能性があります。
株価はPER×EPSで分解して確認するのが最短です(詳細は「株価は「PER × EPS」で決まる」)。